引っ越しを決めて、部屋を下見に来た時は築ウン十年(要所リフォーム済)の家賃は安いけど何の変哲もない普通の和室のアパートだった。
古くて安いんじゃ端から怪しいんじゃないかと思うだろうが、俺と同郷の婆さんが家主の、何だか優しい様な懐かしい様な雰囲気の良いアパートだ。
2階建てで南向きの日当たり良好、大学からも近く何より街の中心地にあるのが魅力的な物件だ。
まるでそこだけ時代に取り残されてる様な感覚になるがそれがまたいいと思ってる。
最初の出会いはバイトから帰って一息つこうとお茶を煎れようとした時だった。
お湯を沸かしてる内に急須や茶葉を出そうとしたら
『はい』
「あ、ありが……」
という女の子の声と共に目の前に茶葉の缶が浮かんでいた。
ちょっと待て。
反射的に返事をしてしまったが俺は確か一人暮らしだったよな。
ここではっきり言っておこう。
俺はこのテのものが本っっっっっ当に苦手だ。
苦手すぎて嫌いと言っても過言ではないし、正直意味が分からないと言ってもいいだろう。
だから夏のそういった特集番組も見ないしできるだけ話も聞かない様にしてきた。
のに。
目の前で自分が実際の体験者になってしまっていることにきっと俺の心のキャパは暴発寸前だろう。
予想通り数秒フリーズして意識が遠退く中、場違いな位いやに明るい『はじめましてこんばんはぁ』という声が聞こえた。