「おはよう」

 

「…おはよう…ございます…?」

 

 

 

笑顔で朝の挨拶をすれば彼女は眠い目を擦りながら疑問系で返してくれた。

 

 

 

「起きぬけで悪いんだけど、このタオルやってくれたのって君?」

 

 

 

言いながらタオルを見せると少しぼーっとした後、物凄い早さで起き上がった。

 

 

 

「あっ何、俺寝ちゃっ…いや、はい…倒れてたんで…」

 

「ぷっ。焦んなくていいよ」

 

 

 

一気に話す少女に僚は思わず吹き出してしまった。

途端に恥ずかしそうに顔を染め、居心地悪そうにすいません、と言って座った。

 

 

 

「謝んないで。いきなり質問した俺も悪かったし。それより、ありがとな」

 

「?」

 

「タオル。それと本当は俺が起きるまで待っててくれるつもりだったんだろ?」

 

 

 

一緒に寝ちゃってたけど。と笑いながら付け足した。

 

 

「はい…」

 

 

 

またもや恥ずかしそうに照れ笑いをした。そして近くに転がっていた眼鏡を慌ててかけた。

 

 

 

「君、名前は?」

 

「あ、真壁です」

 

「真壁、さん…下の名前は?」

 

 

 

少し言い難そうにどもり、「一騎、です」と告げた。

 

 

 

「一騎?えっと、ごめん…男?」

 

 

 

混乱しながら聞けば、一騎は苦笑した。

 

 

 

「いえ…女です。親父が何故か男が生まれるって信じてて…この名前しか考えてなかったらしいんです。おかしいですよね」

 

「へぇ…でも、綺麗な名前だな」

 

 

 

思った事を口にすれば相手は酷く驚いていた。

 

 

 

「そんなこと言われたの、始めてで…」

 

「そうなの?まあたいてい驚きのが先にきちゃうよな」

 

 

俺もそうだったし、と明るく笑った。

 

 

今までそうやって間違えられるのは慣れてるにせよ、多少なりは悲しくなったのだが、綺麗という言葉に悲しみは沸かなかった。

 

 

 

「聞いてばっかで俺の自己紹介が遅れたな」

 

「知ってます。将陵先輩」

 

「あ、俺もう言ったっけ?」

 

「皆知ってますよ。生徒会長ですよね…大人気ですもん、先輩」

 

 

 

その後も他愛ない会話を続けていると再びチャイムが鳴った。

 

 

 

「あれ、そーいや今って何時間目だったんだろ」

 

 

 

腕時計で確認した後、すまなそうに僚が謝った。

 

 

 

「あちゃー…ごめんな、真壁さん。さっきのチャイムは昼休みが終わったやつみたい」

 

「…本当だ…いえ、俺も寝ちゃったんで」

 

「そうだ!よかったら一緒に昼飯食べないか?」

 

「これからですか?でも昼休みは今終わったんじゃ…」

 

 

 

すると僚はいたずらをする子供の様な表情で「俺を誰だと思ってるんだ?」と聞いた。

 

 

 

 

「?」

 

「生徒会長の権限はこういう時に使わないと」

 

「…職権濫用?」

 

「真壁さんは腹、すかないの?」

 

「…すきました…でも、いいんですか?俺は生徒会の人間でもないのに」

 

「いーのいーの!元は俺を心配してくれたんだから…とさ、」

 

 

 

不意に僚が一騎の眼鏡を取った。

 

 

 

「?!何す…」

 

「あー、やっぱこれ伊達じゃん」

 

「か、返してくださいっ」

 

 

 

顔を見られたくないのか、俯いたまま手を出した。

 

 

 

「んー、何で下向いたままなの。顔、上げて?」

 

 

 

相変わらず一騎の眼鏡を片手に持ったまま、顔を覗き込もうとした。

するとおずおずと顔を上げた一騎と目が合った。

 

 

 

「うん、やっぱり可愛いじゃん」

 

「かっ可愛くなんかないっ」

 

「俺が言うんだから自信持っていいよ…、そうだ。そのまま教室に弁当取りに行っておいで」

 

 

 

冗談じゃないとばかりに青ざめる一騎に慌てて弁解した。

 

 

 

「ちょ、別にいじめてるんじゃないよ?」

 

「…じゃあ何なんですか…」

 

「だって絶対そっちのが可愛いと思うし。」

 

 

 

言い切った僚に動けないでいる一騎に

 

 

 

「じゃあ生徒会室集合な〜先生には俺の手伝いが終わらないとか言っとけば平気だから」

 

と先に行ってしまった。

 

 

 

「え、本気で?」

 

 

 

残された一騎は足取りも重く、教室へ向かった。