「あっ一騎くん!どうしたの、何かあったの…って、え?」
一騎くん?と首をかしげた真矢。無理もない、そこには見慣れた一騎ではない一騎の姿があったから。
「どうしたのっすっごく可愛いよ!」
「遠見…生徒会長に眼鏡取られた」
「将陵先輩に?なんでまた」
「倒れてたのをついてたら眼鏡奪って、ご飯食べようって…」
文法がめちゃくちゃで、よく解らなかった。
「え?つまりどういうこと?」
「自分の所為でお昼を食べ損なったから、これから一緒に食べようって…」
「誘われっちゃったの?!」
「誘われたって…そんなんじゃないよ」
「凄いじゃないっ!ってこれから?」
「うん、生徒会の手伝いをしてるって言えば平気だって…」
「じゃあ先生にはあたしが言っといてあげるから早く行ってきなよ」
自分のことの様に興奮しながら一騎に鞄ごと手渡した。
「じゃ…悪いけど、頼むな!」
「まかせて〜!チャンスだよ、一騎くん!頑張ってきてっ」
「何のチャンスだよ…行ってくるな」
「失礼します」
控えめに扉を開け、一歩中へ入ると、今までの蒸し暑さが嘘の様な涼しさだった。
「早かったな」
「友達が代わりに言っておいてくれるて言ってくれたんで」
「そっか。いい友達持ったな」
「はい…俺には勿体無いくらいです」
「二人で釣り合ってるんだからさ、そんなに謙遜するなよ」
「はい…って先輩、早く眼鏡返してくださいよ」
「えー…せめて俺といる時は外してて?」
人好きのする笑みで強請られては、押しの弱い一騎に断る術はなかった。
「…食べ終わったらちゃんと返してくださいね」
「えー…」
まだ不満げな様子の僚を横目に一騎は弁当の包みを開けた。
「うわぁ綺麗なお弁当だな」
「そう、ですか?」
色とりどりの弁当に、思わず身を乗り出した。
「お母さんが作ってくれてるのか?」
「いえ…うち母さんはいないんで」
「そっか…悪いこと聞いちゃったな」
「いえ」
苦笑しながらよかったらどうぞ、と差し出した。
「いいのか?」
「俺が作ったんで口に合うか解りませんけど」
とりあえず定番のだし巻き卵を口に運んだ。
「…美味いよ!」
「よかった…」
「凄いな!こんなの作れちゃうんだ」
「料理は慣れれば簡単ですから…あれ、先輩のお昼は?」
目を輝かせて褒め続ける僚に聞いた。
「俺ん家も親いないからさ…」
とコンビにの袋を掲げた。
「…もしかして毎日?」
「うん」
さして悪びれも無く答える僚に一騎は本日幾度目かの溜息を吐いた。
「だってさ…俺料理とか得意じゃないし時間ないから、つい頼っちゃうんだよな」
と笑う彼に、同じように既製品ばかりを食す幼馴染を思い出した。
「そういうの、あんま体によくないですよ?」
「うーん…解ってはいるんだけど…」
「……何なら俺が作ってきましょうか?」
「え?」
余りにも自然に出た言葉に一騎自身驚いた。
「え、あ、いや…俺、釣が好きなんですって言ったんですよ!」
「いや、無理があるから…つしか合ってないし。それより…いい、のか?」
あくまで突っ込みは冷静にする僚に少しセンチになった。
ていうか聞こえてるんじゃん…。
「別に一人分も二人分も大して変わらないし…」
「じゃぁ悪いけど…頼んでいいか?」
「別に…いいですよ…今の先輩の食生活の方が心配ですし」
「やった!こんな美味い飯が食えるなんて」
「ちょ…オーバーですって」
「だって本当に美味いし!もっと自信持っていいって」
「はぁ…」
「そうだ!せっかく作ってきてくれるんなら、毎日ここで食べないか?」
「生徒会室で?」
「駄目か?」
少し大人しくなる僚に、再び駄目とは言えなくなる。
「俺、一般の生徒だし…迷惑かけちゃいます」
「迷惑なら最初から誘わないって」
にこにこと、良い返事だけを期待している顔。
「じゃ…じゃあお願いします」
「ほんとかっ?やった約束な!」
一騎の両手を握り、ぶんぶんと振り始めた。