「総士〜?どうしたんだ?」
「あそこ、何か見えないか?」
自分の主でもある男が海の一点を見つめたまま呟いた。
「?…あ、なんか……手…?」
「船を寄せてくれないか?」
「了ー解!」
物体の近くに行ってみると、それは紛れもない人で。
「おい!大丈夫か!?」
『ばいばい…』
呟いて、再び沈む体。
「!?この手を掴めッ!」
見るからに高価そうな衣服の袖が濡れるのも構わず、自ら手を差し伸べた。
「よし、いい子だ…そのまま、怖くないから…」
必死に海から抱き上げたのは、自分とそう年端の変わらない少女だった。
気が付くと、そこは見たことも無い様な部屋で。
明るい室内に風が吹いて、自分の寝るベッド周りのカーテンを揺らした。
「…つば、き…?」
「残念ながら違うんだけどな」
誰かいるなんて思ってもいなく、驚いた。
見れば青年が桶を持って立っていた。
「あ、…すいません」
「え?なんで謝んの?」
一瞬きょとんとして、相手が笑い出した。
「今目が覚めたばっかなんだからさ、そんな気ぃ使わなくていいよ」
「はあ…」
桶を寝台脇の台に置いて、額に手を当てた。
「うん、だいぶ下がってるな」
目線を合わせて安心させるように笑った。
「君、海で溺れてたんだ。覚えてない?」
そういえば足が生えて、動かし方が解らなくてもがいた所までは記憶していた。
「…色々ご迷惑をかけたみたいで…ほんと、すいません」
深々と頭を下げた。
「だーから!謝んないの」
な?と大きな手で頭を撫でてくれた。
「ありがとうございます」
元来懐きやすい性格の一騎は、その言動で早くも目の前の人物に心を許した。
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