「あの、遅れちゃったけど俺、一騎っていいいます」

「一騎か。良い名前だな!俺は僚って言うんだ。よろしくな」

「はい!」

「でもどうして一騎は海の中にいたんだ?」

「え…その…えと、…かっ海水浴してたんです」

「あんな沖の方まで?」

「あの…な、流されちゃって…」



苦し紛れに苦笑えば。



「おっちょこちょいなんだなぁ」



寧ろ関心とばかりに相手は呆れた。



「あんま泳げないなら一人で海に入っちゃ駄目だぞ?」


ともう一度優しく頭を撫ぜた。


「気を付けます」

「よし、いい返事だ!あ、もう起きれるか?目が覚めたら連れてきてくれって頼まれてんだけど…まだ寝てた方がいいか?」


キツイならまた後で様子見に来るよ、とシーツに手を置いた。


「あ、もう大丈夫です!起きれますっ」

「あっそんないきなり起き上がったら…!」



慌ててベッドから降りようとした。


瞬間、視界が下がった。



「あれ?低い…」

「低いじゃないだろ…大丈夫か?」



見上げれば、僚が苦笑しながら手を差し出していた。



「うおっ僚さんが巨人に!?」

「えっ俺が巨人に!?っていや違う違う。一騎がしゃがんでんの!」



あまりにいいテンポで言われ一瞬僚自身も惑ったが、はたと我に返った。



「…ぁ!ほんとだ…」



これが、人間の足なんだ…

あれ程までに憧れた人の足は鉛の様に重たく、自分の思う様には全く動いてくれなかった。



「一騎?大丈夫か…?」



呆然としている一騎を心配したのか、声が降った。



「わ、ごめんなさい!平気です…でも…あ、歩けそうに…ないです」

「どっか痛めたのか!?」



言うなり、一騎を抱き上げてベッドに体を戻して足を診始めた。



「痛めてはいないんですけど…練習すれば、きっと」

「練習?足が悪かったのか?」



しまった、これではどんどんと突っ込まれ、自分が人ではないとバレてしまう。



「や、…」


どうしたものかと考えるが、いい言い訳が思いつかない。

これは仕方がないが嘘をつくしかない。



「いえ…やっぱ知らないうちに痛めてたみたいです…」


「大丈夫か?」

「はい、様子みてれば治ると思うんで」



考えた結果、自力で練習するしかないと結論付けた。



「そっか、足だけ?」

「はい、体はもう元気なんですけど…」

「じゃあ…ほい、」


くるりと背を向けてしゃがんだ。



「え?」

「ん?おんぶして行こうと思ったんだけど…嫌か?」

「お、オンブ?」



初めて聞く単語に、発音もままならなかった。



「えっおんぶ知らないのか?」

「すいません…」

「変わってるなぁ」



でも決して嫌な顔はせず、いいんだよと笑った。



「あ、でも足が動かないんだっけ?」

「動かないです…」

「じゃあおんぶは難しいか…」



少し考えて、ごめんなと言いながら背中と膝の裏に手を差し込んだ。



「よっ」

「!?」


掛け声と共に浮き上がる体に吃驚して、持ち上げた張本人の僚に咄嗟にしがみ付いた。



「これなら移動出来るだろ?」



目を丸くする一騎を見つめて笑いかけた。



「…はぁ」

「やっぱ年頃の娘はこんなの嫌か?」



気にする様に言う割には、既に足はドアの外へと向かっていた。



「やっ全然!ありがたいんですけど…その、お、重くないですか?」




すると相手は一瞬止まって。



「あは、そんなこと気にしてたのか?」



持たれる方にしてみればそんなことでは済まされないのだが、黙って頷いた。



「全然重くないよ。寧ろ軽い方だと思うぞ?」



常に笑顔で言われては、中々強くは出れないもので。


「〜っ疲れたら降ろして下さいね」


大人しく、運んで貰うことにした。