まるで大道芸や道化の類の見世物でも見ているかの様な心地だった。



男は(と言っても僕とそう変わらない見た目だが)その空の鞄から、見事に、漆黒のマントを取り出して見せたのだ。


これでは、死神よりは奇術師の方がぴったりなのではないか。


そんな考えを余所に、死神はそのマントを羽織り



「どうだ?」



と何故か誇らしげに聞いてきた。



「あ…あぁ…」

「ああって…それだけかよ?」

「そっちの方が死神っぽく見えるよ」

「ぽくって…」

「どうせならその格好の方が騙せたかもしれないぞ」

「これは暑いし動きにくいから…って騙すも何も本当なのに!」



あくまで軽く流していると黒猫が死神の肩に飛び乗った。


じ、と見透かすような目で見つめてくる。



「一騎、こいつ…お前が見えてるのか?」

「あっそうだ!そうなんですよ先輩」

「リストには?」

「仕事はさっきので終わりだし、今日の分には載ってなかった筈なんですけど…」



黒い皮の手帳を開き、何やら相談が始まった。




一人置いてかれて、いよいよこれは夢なんじゃないかと思い始めた。




「皆城総士」



いきなり教えてもいない名前を呼ばれて、



「覚悟を決めろ」




何故か最後通告をされたかと思うと、猫を中心に入れていた視界の端に、死神が映った。



その死神が自分よりも遙かに大きな鎌を振り翳して、











狙いは 綺麗に 間違えることなく、僕だった。

















ああ、これは死神らしいな、とふと頭の中で浮かんだ。









その鋭利な切っ先が首に斯かる直前、彼は「ゴメン」と泣きそうに、でもしっかりと僕の目を見て言った。



直後、衝撃は無かった。

背筋に悪寒が走っただけだった。




「あれ〜?やっぱり違かったな」




その場に似つかわしくない、間延びした声だった。




「?」



未だ目を瞑ったままで固まったままの死神に、猫が言った。



「一騎、やっぱ違う」



恐る恐るといった感じで漸く目を開けて僕を確認すると、すぐさま駆け寄ってきた。


「ああ善かった!違かったんだなっ…ごめんな、痛くなかったか?ああ、ほんと…よかった!」



これが、例え自称でも人の命を狩る者だろうか。

口早にそう言うと、僕の体を触ったり軽く叩いたりして何かを確かめていた。


一頻り確かめて気が済んだのか、彼は猫の方を向いた。



「先輩、どうします?」

「うーん…」




いやいやいやいや、ちょっと待て。可笑しくないか。


何か可笑しくないか。






「おい、そこの一人と一匹。人にいきなり鎌を振り被って、放置とはご挨拶にしてはあんまりじゃないのか?」


そんなことされる謂れはまるで覚えがないんだがな、と腕を組んで思いっきり皮肉を投げつけた。



「と、そうだな!確かに悪かった!理由も言わずいきなりの無礼、申し訳なかった」

「ごめんな」



先ほどとは違い、畏まり礼儀正しくお辞儀した。


するとまた音もなく、猫は人の肩に飛び乗った。

恐らく其処が一番居心地のいい定位置なのだろう。