「一騎がもう言ったとは思うけど、コイツ、死神なんだ」
「どうやら本当らしいな」
「やっと信じてくれたか!」
シリアスな僕等の会話に、そぐわない明るい声が響いた。
「…。で、俺は一騎の相方っていうか使いっていうか…まあそんなもん。僚って言うんだ」
「はぁ」
「そんな!先輩は使いなんかじゃなくって…指導者ってか…階級もレベルも雲の上の人でっ…っていうか可愛い!」
「やめろって一騎〜」
ぐりぐりと頬擦りする一騎に
口では止めているが、実際見ていると互いに嬉しそうで喜んでいるようにしか見えなかった。
「それで?」
そのままにしておけばずっと続けているだろうその演目に自ら水を差した。
「俺達には、その日死ぬ奴が解る。名前や顔、そいつの情報が」
「で俺の姿は死ぬ奴にしか見えないんだ」
「僕は…?」
「それが問題なんだ。お前は今日に限らず向こう当分リストにも載ってないし、何の情報も来てない」
「なのに俺が見える。剰え、会話が出来てる」
相変わらず抱かれたままの猫の僚と死神の一騎が交互に話す。
「それで?」
先を促せば。
「この鎌は、死ぬ予定の奴以外の人間は斬れないんだ」
「そこで、いっそ狩ってみれば解るだろってことで」
「容赦なく襲ってきたのか」
そんなノリで殺されては堪ったもんじゃない。
呆れてしまった。
「ごめんなぁ何せ俺達にも始めてのことでさ」
「これからちゃんと聞いてくるから」
「誰に?」
「俺達の世界で一番偉い人」
「一番…」
「閻魔大王だよ」
あの、よく画や書物では禍々しく描かれる 閻魔?
余りに現実離れした展開に頭が置いていかれている。
「いるのか…本当に」
「そりゃ、な」
「あの人がいなきゃ俺たちもいないだろうし」
「や、やっぱり赤かったり、舌を抜いたりするのか?」
「?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
少し淋しさを感じたのは、黙っておこう。
「どうする?お前も行くか?」
猫が相変わらず一騎の肩で、まるで夕飯の買い物にでも誘う様に話した。
「そんな一般人が気軽に行っていいものなのか」
「いーっていーって!だってお前、なんかワケ有りっぽいもん」
「そうだよ。俺が見える時点で無関係ではないもんな」
何故か二人は楽しそうだった。
しかしその疑問は直ぐに解決された。恐らく即興で作られた一騎の気楽な唄によって。
「なーかまぁ〜」
「いぇい!」
「なーかまぁ〜」
「ヨイっ」
「そーぅしーはぁ〜」
「「なーかまぁ〜」」
猫を抱きながら一騎が歌い、僚が合いの手を打つ。
そのナンセンスとも取れる微妙なミスマッチングなハモリ、歌詞。最後はデュエットでフィニッシュか。
何かがおかしい。
それはこいつ等に会ってからずっと思っていたが
やっと解った。
こいつらが、おかしかったんだ。
「お前、この後予定は?」
「え…いや、特には」
もう大学は終わった後だし。
来年卒業の身は授業も殆ど無く身軽なのだ。
「よしじゃあ今から行こう」
なんとテンションの高いことか。
先程までは泣きそうな顔で人に鎌を向けていた同一人物とは思えない。
「…仲良くしてやってくれ。あいつは嬉しいんだ」
少し先で腕と手を使いリズムを取りながら歩く一騎を見ていると、不意に足元から優しい声がした。
「嬉しい?」
「ああ。あいつは人には見えない。折角見えても、次の瞬間にはそいつを、自分が殺すんだ」
ああ、そうか。
「寂しくて…それで、嬉しかったのか」
「…。見えても、いなくならない。会話出来るのに、殺さなくていい。あいついにはそれがこの上なく幸せなことなんだ」