僕の目の前には 無機質な機械に囲まれた 青白い君。
部屋には優しい木漏れ日が、唯、差し込んでいた。
それが余計に彼をただ眠っているだけの様な錯覚を起させる。
名前を呼べば、起きて、其の目には僕が映るのではないのかと。
なのに。
自分で呼吸することも忘れてしまったの
いつも少しだけ赤かった頬が痛々しい位に白い。
いつも血色の良かった唇も薄紫。
その細い指に触れているのに、どうして握り返してくれないの
真っ黒な髪が顔にかかっていて
目を閉じているから 普段よりも幼く見えて。
泣きたくなった。
否、泣きたかったのは一騎の方だ。
僕なんかが泣きたいなんて云ってはいけない。
彼をここまで負い込んでしまった僕が。
「‥‥一騎‥‥?っ‥‥一騎っ!」
なんでまだ眠ってるの?
頼むから返事をして。
声を、聴かせて。
おかえり、って云って
お前に一番最初にただいまって云いたくて
おかえりって云って欲しくて
遠見達に会っても ただいまなんて云ってないんだ
お前は今、その深い眠りの中で どんな夢を見ているの
ねぇ、頼むから目を開けて僕の大好きな声で答えてよ。
「あの日、一騎君は帰ってきたわ」
未だ起きない一騎の前で立ち尽くす僕に、声が降った。
「治療も始めて…順調に回復に向かっていく、と思っていたわ
でも彼の身体は痩せ衰えるばかりで…視力も、良くなっている振りをして、本当は全然戻ってなんかなかったの…
何より大事な一騎君の心の安定を、私は見落としていたの…。
結局、私は肉体的にも精神的にも、彼を治す事が出来なかった…医者として…いえ、大人としても失格ね…」
ごめんなさい、と声を震わせた。
「…もう一騎が起きる確立…見込みは……ないんですか」
「残念ながら…何とも云えないの…真矢達が何時も話し掛けに来ているけど…反応は見られないわ…」
俯いたまま、先生が首を横に振った。
「その…今この状況で云うのは…良くないのかも知れないけど」
「なんですか」
「一騎君の意識が無くなる3日位前から…あなたの、記憶が…抜けてしまっていたの」
声も出なく、反応も出来なかった。
「そ、……一騎、から…ですか」
当たり前の事を聞けば、顔も上げずに先生は口元に手を当てた。
それはやはり、肯定を意味していて。
「きっともうすぐあなたは帰ってくるって真矢が云ったら…」
『え…?誰?』
『一騎くん?冗談は辞めてよぉ』
笑いながら宥めても、一騎は知らないと主張した。
『えと、…ごめん、遠見の知り合い?』
『…え?』
『俺、そいつのこと知らないんだけど…』
何時もの様に苦笑う。
『皆城くんだよ!皆城総士!!小さい頃から一緒で…ずっと一緒に戦ってきたじゃないっ』
『…そうなのか?』
感情的になる真矢にも、ごめん、なんにもわからないと一騎は繰り返した。
嘘や人を騙す事を苦手とする一騎が悪戯けているとも思えず
本当に彼の記憶だけ消してしまったんだと、真矢は悟った。