苦しそうに見上げる遠見の言葉を、僕は一回で理解出来なかった。
「ねえ、一騎くんの所へ行って話しかけてあげてよ‥‥あたし達じゃ駄目なんだよ‥‥」
遠見のセリフの途中にはもう僕は走り出していた。
「皆城くん‥‥!」
遠見の声が遠くに聞こえる。
僕は叫んだ。
「乙姫!一騎はどこだ…っ答えろ!!」
こんな大声を出すのは初めてかもしれない。
況してやこんな外で。
でも今は形振り構ってなんていられない。
聴こえてるんだろと吼えると、風が吹いた。
その誘導に誘われる様に僕は只管に走った。
着いた先は、知らない建物だった。
すぐ近くには遠見の家。
ベルを鳴らせば、遠見先生が出て。
一瞬驚いた顔をしてすぐにおかえりなさいと言ってくれた。
「只今戻りました。あの、早急ですが一騎は?」
「そうね…中に居るわ…着いて来て」
出されたスリッパを履いていると、先生は説明した。
「ここはね、戦いの後に建てられたの。病棟…という表現が一番合っているわね」
「!」
病棟という単語に、一騎がどんな状態なのかが過ぎった。
「家でも患者を診られるけれど、親子三人生活していて何かと狭すぎるし、地下も…医療器具は揃っているけど…
あんな陽も射さない所では治療には不向きだから」
そして、ある扉の前で立ち止まった。
「…皆城君、取り乱しちゃ駄目よ」
それはかつて僕が剣司に言云った言葉。
慌ててドアを開ければそこには。
ああ、きっとこれは報いなのだ。
未だ現状を飲み込めていない脳に、客観的に僕が囁いた。
あの時、自分だけ満足しながら散った報い。
あの時一騎はどうだったかなんて、僕は耳でしか聞いていない。
きっと、彼にとってこの世界は褪せてしまったんだ。
だから、見ないほうがいいと
目を閉じて休んでしまったんだね。
長い眠りに。
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