その日の空は鈍よりとした薄暗い雨雲に覆われていた。



発展と退廃の織り混ざった気怠い空気が漂うこの裏通りには、降りそうで降らない雨のせいか、はたまたその雰囲気が余りに怪しいせいか、人が疎らであった。

ここも歓楽街ではあるが、この通りを少し出れば不夜と謳われている繁華街があるというのに、このきな臭い路地裏はまるで別の世界に来てしまったかの様な錯覚さえ覚える。



「なんだか…ここだけ取り残されてるみたいな感じがするね」



久々にここいらを歩いたキラはやる気なさ気に呟いた。


そして側を歩くシンが続ける。



「寂れた外見とは違って怪しい店ばっかですもん。地元のヤツはまず近寄んないですよ」




不夜の街も合法非合法の店が多少なり入り乱れているが、こちらはほぼ非合法の、無法が法律の様な街だった。


だから道端にうずくまる人がいても誰も気にしない。一般人であればほぼゴミが落ちてるのと同じ様な認識だ。



「なんだアレ」



歩きながら、シンが浮いた「ゴミ」を見つけた。




大きなゴミ箱を陰にする様に人がもたれていた。


常人であれば素通るが、この二人は警戒しなければならなかった。








職業柄、不自然は見逃せないのだ。




十分な距離を取り気配を断ってそれの様子を見る。









今にも泣き出しそうだった空が泣き出して、街を濡らした。


人も店も屋根も道も少しずつ色が変わる。



それを嫌がり、疎らだった人も野良もどこかへ逃げてしまい、気づけば二人と不自然物しか見当たらない。






















「どう思います?」



観察して数分、ぴくりとも動かないのは本当に死んでいるのかフリなのか、この位置からでは解らなかった。



「うーん…なんだろう。でも普通の行き倒れ、っていうんじゃなさそうだね」



小声で話していると、全く動かなかった肩が揺れた。



二人はまた会話を止め息を殺す。



俯いていた顔が表を見て、また力無く俯いた。






身なりはかなりぼろで、髪もボサボサ、腕や顔には痣や傷が沢山あり、何より大きな眼帯が目立つ。

そんな一見浮浪者紛いに見えるそれの、一瞬上げた時に見えた片目の赤さがやけに鮮明に残った。





「俺達以外であんな目…何者ですかね」



不審そうにシンが呟く。


キラはその問には答えずそれに近付いて行った。



「ちょ、…キラさん!」



彼の突飛な行動にはもう慣れっこなのか、一息ついて後を追った。



そして相変わらず動かないそれの前に立ち言う。










「君……アルヴィスの生き残りでしょ」










面白いものを見つけた子供の様に笑った。



はっとしてシンもそいつをよく見る。



「しかもこの印…ウルド!?キラさん離れてください!」



腕の焼印を見たシンが警戒したがキラは構わず近付いた。



「いや、もっといいものだよ…」



おもむろに屈み込み、顔の右半分は覆う大きな眼帯をずらした。

抵抗されたが体力のないそれはいとも簡単に封じれた。



「この瞳…マスター型…?」



先程から見えていた左目は血の様な赤とは対照的に、眼帯に隠れていた右目は眩しい金色だった。



「ねぇ、当たりでしょ」














尚も睨みつけてくる異形の二色を見つめながらくす、と綺麗に笑った。