「あっ一騎!」
ドアを開けるなり一騎を見つけたクロトが嬉しそうに漂ってきた。
「おー、どうしたんだ?」
タックルの勢いで飛びついてくるクロトを器用に抱きとめた。
「ヘヘっおっさんが頼んでた新しいゲームくれたんだ!一騎もやろうぜ」
「へぇ…ムル田さんが」
もともと一騎はこの国の生まれではない。
遠く離れた竜宮島というところからやってきた。一通りなんでもこなす一騎を理事であるアズラエルが軍医兼教育係として
戦艦ドミニオンに迎え入れたのだ。
故郷である島から離れてこの軍に入ったのだから、何か訳ありなのだろうが一騎は誰にも何も言わなかったし、
また誰も聞かないでいた。
竜宮島は旧日本のような島で、名前は勿論漢字表記だったわけで。
最初にアズラエルと会ったときに
「初めまして、カズキ・マカベ。私がこの艦の理事のムルタ・アズラエルです」
少し気取った喋り方が印象的だった。
「あ、はじめまして…えっと…ムル田、さん?」
初対面だからか、ぎこちなく笑った顔が、なんとも可愛かった。
ブフッ!!
「…いえ、ムル田ではなく…ちょ、オルガっ!笑いすぎですよ!」
腹を抱えて笑うオルガを、違いに気付かない一騎はただ不思議そうに見ていた。
「オルガ!あなたも笑ってないで自己紹介でもしたらどうです?」
咎めるように、少し嫌そうに言った。
「解ったよ。ムル田、サン」
不敵な笑みを浮かべながらアズラエルを挑発した。
一騎のような可愛い顔で邪気なく言われるのはまだいい。
だがあれは完全に悪意ある顔だ。
しかもオルガのようなヤクザもびっくりの顔でやられても、腹が立つだけだ。
「オルガ・サブナック。よろしく」
綺麗だし、整った顔だが如何せん怖いものは恐い。
「真壁、一騎です…よろしくお願いします」
「今はいないがあと二人いる」
「あ、データ見ました。ブエル少尉と…アンドラス少尉?」
「あぁ。あいつらは今日は面倒くさがってサボったが…あとで一緒に行ってやる」
「本当ですか?!良かったぁ…ありがとうな」
あの二人(この場合特にシャニ)に一人で会いに行くの胆の座ったやつでもなかなかいないだろう。
無理もない、この三人の写真を見れば…。
一人は先にもあった通り金髪を惜しげもなくオールバックにしたチンピラ顔のオルガ。
一人は赤髪の、一見可愛く見えるが不機嫌さを隠そうともしないクロト。
一人は若草色の髪で左半分の不健康なまでに血色の悪い顔を隠したシャニ。
彼らと仲良くなりたいと思う一騎だが、先が心配だったのだ。
「では一騎。もう荷物はこっちに届いているんですね?」
「はい。もともとそんなにありませんでしたから…」
「では今日はもうゆっくりと休んでください」
にっこりとこの艦のお偉いさんに言われては逆らえるはずもなく。
「はい…」
「本格的な仕事は…そうですね、まだ慣れてもないでしょうし…明後日位からで」
それまでに荷物の整理とかをしといてくださいねと言って去っていった。
彼も忙しい身なのだろうと勝手に結論付けて部屋に行こうとした。
「おい」
「はい?」
突然オルガが声をかけてきた。
「整理、いつ終わる?」
「?」
話の読めない一騎はただおろおろとしていた。
「あいつらにも挨拶すんだろ…俺たちの部屋知らないんだから迎えに行ってやるよ」
最初に聞こえたさり気ない舌打ちはこの際気付かなかったフリをして。
根本的にいい人なのだろう、と一騎の中で分類された。
「そこまでしてもらうわけには…」
流石に気が引ける。
が。
「場所、解んのかよ?」
と言われてしまえば「…お願いします」と返すしかなくて。
「そんなに荷物はないんで…」
ふと時計を見て、時刻は午前十時を少し回ったところ。
「十一時位には終わると思うけど…皆さんの予定は?」
「あ゛?俺らは今日は午前の定期検査だけで終わり」
「そうですか…じゃ、お願いできますか?」
困ったように伺う一騎に幾分頬を赤らめたオルガ。
「ああ…それと別に敬語じゃなくていいぜ。名前も。年も近いんだし」
「え…ほんと?よかった!これ結構疲れるんだよなぁ」
砕けた口調になって、やっと年相応の表情になった。
「じゃ、十一時頃迎えにいくな」
「うん、頼むな。いなかったら多分、医務室の方に行ってると思う」
「了−解」
背を向けて手をヒラヒラと振る後ろ姿を見届けてから、既に荷物が届いているであろう部屋へ向かった。
→