何故か目が覚めた。
隣には微笑んだまま眠る一騎。
「……やってくれたな」
呟いてもあの笑顔は返っては来なかった。
瓶のラベルはちゃんとペントバルビタール配合剤と書いてある。
きっと僕のだけビタミン剤やらと少しの睡眠薬だったのだろう。
お前の優しさは、時に本当に残酷で。
残されてしまった。
この世界に。
ああ、見たくも無い朝が来た。
眩しすぎる朝は諦めを誘い
僕は全てを曝け出して この身を委ねる
握り締めた冷たい指、君は相変わらず微笑んでいて
僕はかける言葉もなく 景色は滲む
始まれば何れ終わる綺麗事などいらない
せめて君を暖めたい
ほんの少しの時間を与えて、神様。
憂鬱な目覚めは
隠せない絶望をまざまざと映し出して
それでも、お前の愛した世界は美しくて
多分、物心付いてから初めて泣いた。
みっともなくも止まらない涙が僕と一騎の亡骸を濡らした。
何度問い掛けても反応はなく
いつもみたいに、眠ってるみたいだった。
なのに、どうあっても君の声が聞けない。
目が見れない。
鼓動がない。
どうしようもない不安と焦燥感に駆られていると、足音がした。
「そぉし…ッ!一騎が…一騎がぁ!」
「乙姫…」
それが妹だと確認するのに数秒時間が掛かった。
…何故、此処に?
廃屋に、風が走った。
始めて君を見た時の、あの風が。
― 乙姫を守れ ―
そう言われたきがした。
ああ、あの風はやっぱり君だったんだね。
僕は始めから惹かれていたんだ。君に。
こんな運命も
受け入れろと。
「一…、騎?い、ゃぁああー!一騎、かず…ぅわぁあん…な、なんで…なんでかずきぃ!!」
大きな瞳から溢れる涙を拭いもせず、駆け寄って
骸を抱きしめた。
「く…っぅそつき……いっしょ、くらすって…げんきっ…ぅう…なる、て…言った、のにぃ!」
「乙、姫…」
「そぉし!なんで一騎は寝てるの?起きてくれないよぉ…」
「乙姫っ!」
しがみ付いてきた妹は、とても小さかった。
「置いてかないでよぉ…やだよ…ぉ…」
一騎が昨日最期に飲んだ水よりも、今日たくさんの水が流れた。
「お前がいないのに…幸せなんて……なれるか…ッ
僕は絶対、……忘れてなんかやらないからな」
雪が止み、朝焼けが差し込む廃屋で僕は呟いた。
― キラキラした夢の島 一緒に行こう ―
≪ こんなろくでもない世界で、逢えてよかった。
終。