「…別にっ…ただの気まぐれ?」

「…はぁ…。目が泳いでるぞ。つけない嘘はつくもんじゃない」




ぽん、と頭に手を置いた。




「ほら、怒らないから」



と目元を緩めるアスランをちらりと見て、ようやく口を割った。




「…妹が…」

「妹が?」

「体が弱くて…入院してるんだ…でも手術をすれば直るって言われて…」

「そうか…。親は?」

「両方、妹が生まれてすぐに交通事故でさ…」

「っすまない……悪いこと聞いたな…」

「平気だよ。友達の親によくしてもらって…中学を出たら俺は働くつもりだったんだけど、ほら、学校にも行かせてもらってるんだ」



鞄を見せて嬉しそうに言った。



「学校は寮付きで困らないし、それだけで充分なのに…総士は…妹の手術費用まで出すって言ってくれるんだ……」



今度は悲しそうに笑った。





「もうこれ以上迷惑はかけらんないから…自分で何とかお金作れないかなって」

「そうだったのか……、ん?総士?総士って皆城総士か?」

「そうだけど…って総士を知ってるのか?」

「知ってるも何も…皆城は俺の会社の得意先だ」

「えっ…」

「なんだ…そうだったのか…」



暫く考えるように顎に手を当てた。



「そういうことなら話は早い」

「アスラン?」

「一騎、飯付きで住み込みのバイト興味ないか?」



突然爽やかに提示してきた。



「えっ」

「日給5000円、やることは取り敢えず掃除洗濯。その制服はそこの竜宮だろ?場所は此処からそう遠くないマンションだ」

「や…やる!」



こんな好条件、勿論二つ返事だった。

輝いた目で。



「そんないい働き先紹介してくれるのか?」

「…言い出した俺が言うのも何だが一騎、もうちょっと警戒心を持った方がいいぞ…」

「?」

「こんな世の中だ。どんな罠があるか解んないんだぞ?」

「だっ騙したのか?」





輝きが曇り、瞳が不安げに揺れた。




「いや、今言ったのは俺の家だから…でも。ちゃんと説明を聞いてから判断すること」




解ったか?と優しく肩に手を乗せ落ち着かせた。




「…解った」

「いい子だ。まぁさっき言った通り、つまりは俺の周りのことを頼みたいんだが…それでもいいのか?」




アスランのことをじっと見つめたまま、言われた通り少し考えた。









なんで会ったばっかの、しかも一度騙した俺にこんなよくしてくれるんだ?


まさか、新手のこーゆう手口?


でもさっき自分で警戒心を持てって言ったし


安心させてから罠に?


そう言えば最初のお金もなんだかんだでくれたし…
















…解んないや




元々考えるのは苦手だし

そーゆう風に出来てないんだ、俺の頭は。





ぐるぐると思考渦巻く中、段々混乱してきたので諦めて無謀にも直感で行くことにした。






目線を上にずらして彼の目を見た。




明らかに日本人ではない顔立ち。


緑色の、目。




綺麗な、優しい目。







ビー玉みたい。






























…疑うばっかじゃ、なんか嫌な人生になっちゃうし。




この目は、裏切らない。



何かがそう告げた。





自分が信じたいものを信じよう。




それで駄目だったらそれまで。






それでいいんじゃないかな。















うん。





















「あの、」

「決まったか?」

「俺でよかったら、使ってください」




お願いしますと頭を下げた。


緊張しながら硬く目を瞑っていると頭を撫でられた。




「こちらこそお願いします、だな」




勢いよく頭を上げれば。


そこには




優しく微笑むアスランがいた。



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「一騎、ちょっとついておいで」

「え、ちょ……アスランっ?」

「今日丁度皆城との打ち合わせが入ってるから、話をつけてくる」




近くに停まっていたタクシーを拾い、近いけれども自分には絶対に一生無縁だと思っていた地名をアスランは運転手に告げた。






窓の外の景色は先程までの安っぽい感じではなく、幾つもの高層ビルが聳え立っていた。





「止めてくれ」



降り際にチップを渡す彼に、ここは日本だよなぁと呟く一騎にアスランが口元の笑みを深くした。




「あ。そういえば連れてきちゃったけど平気だったか?」

「今日は設立記念日だから」




じゃなきゃ学費払ってもらってるのにあんなとこでフラフラしないしと少しバツが悪そうに言った。





「そっか。連れてきちゃって今更だけどな」



おいで、とまたアスランは進んでいった。







巨大な高層ビルの中の一つに。




慌てて鞄を抱きしめながら小走りで追いかけた。




「逸れるなよ。IDも無いから連れ出される」




そんなことを言われては急がなくては。

益々焦っているとす、と手が伸びてきて。



「手、繋ぐか?」



見れば、意地悪そうに微笑んでいた。




「い…いるかよ!」



からかわれたことに気付き、ついきつく断ってしまった。








赤い顔で。







口元に手をやりくつくつと笑うアスランに、口を尖らせた。




「悪かったって。ほら、こっち」



手招いて、受付の女性にIDを見せてから一騎の方を見て何かを説明していた。



「一騎。平気だからおいで」



受け付けを過ぎる時に横目で女の人を見ると、ご丁寧に頭を下げていたので慌てて一騎も下げた。
















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はい、パソにここまでは保存してあったんですけど…どうにもこうにも自分で意味が解らなくなってきたので、
是はもう是でお終いしにますす。

THE、不完全燃焼。

一騎を会社に連れて行く必要はあるのか否か。

沢山の疑問を考えるのが面倒になったからです笑