はっきり言おう。
可愛い。
そりゃあもう、べらぼうに。
男の子だと聞いていたが、そうは見えてくて。
そこいらの女の子なんかよりも遥かに可愛い。
煩いだけで何の得も無いなんて言っていた自分が疎ましい。
居るだけで、いい。
そう思えてしまう子だった。
健全な、ノーマル思考だと思っていた僕は、実はショタコンだったのか‥‥。
淡くショックを受ける僕に一騎くんは首を可愛らしく傾けた。
「どうしたの?おなかいたいの?」
心配してくれるのはありがたい、が。
顔近いって!!
ちょっともう慣れたの!?順応早くないか!?
内心かなり焦っている僕だが、平然を装った。
「え、いや‥‥大丈夫だよ。ありがとう。どうぞ上がってください。僕は父を呼んできますから」
「すまないね」
「いえ」
僕は足早に中へ入り、父に彼らの到着を知らせると、トイレに篭った。
無論、用をたす為ではない。
赤くなっているであろう己の顔と心を落ち着かせる為に。
正直、一騎くんがあんなに可愛いとは思わなかった。
父が彼を溺愛している理由が漸く解った。
だが。
僕はこれから数日、一騎くんと二人で過ごさなければならない。
嗚呼、苦悩の日々‥‥。
この年でまさか生き地獄の意味を知ろうとは…。
便座に座り、一人悶々と迷想をしていたが、それにピリオドを打ったのはノックだった。
僕は慌てて、ノックを返した。
これでまた一安心、と思っていた、ら。
「そぉし‥‥兄ちゃん?だいじょうぶ?」
‥‥一騎くん‥‥。お兄さんは全く大丈夫じゃありません。
しかしこのまま黙って中に入っているわけにもいかず、僕は警察に周囲を包囲された
犯人の気持ちを少し理解しながらトイレから出た。
出てきた僕を見ると、安心した様に溜息をついた。
「そうし兄ちゃん、やっぱりおなか痛かったんだね」
「え?」
何を言い出すのかと唖然としていると、一騎くんはすっとドアを指差した。
‥‥まさか。
僕は善からぬ処に逃げこんでしまったのではないか。
「だっておトイレ入ってたんでしょ?」
ああ、神様。僕はなんと浅はかだったのでしょう。
今現在生きていることが、この上なく恥ずかしい。
くそっ‥‥トイレめ‥‥!こんな所に入るんじゃなかった‥‥!
今度入ったら無闇やたらにに壁とか蹴ってやる。
「い‥‥いや、一騎くん?これは‥‥」
「?」
「あー、別に用をたしていたわけじゃなくてね?」
冷や汗を垂らしつつも弁解を考えていれば。
「だいじょーぶ、おれもおなか痛いと、入る」
ああ、カタコトで必死に喋る姿も可愛い‥‥。
あ、やべ。鼻血出てきそ‥‥。
しかし。こんなに励ましてもらっているのだから、そろそろ開き直ろうかな。
「ありがとう。でももう平気だからね」
「ほんと?よかったぁ」
一騎くんが納得したのでリビングへ戻る為にもと来た道を引き返したかと思うと
ドアの前で僕のズボンが引っ張られた。
「どうかした?」
引っ張っている主をみれば手招きをしていて。其れに従い身を屈めた。
「そーし兄ちゃん、おなか痛かったのにげんかんあけてくれてありがとねっ」
それだけ言い残すと、彼は嬉しそうにリビングの中に入って行った。
多少の勘違いは残っているけど。
‥‥うん。たまにはトイレも悪くないかもしれない。
前言撤回。
ビバ、トイレ。
これからは芳香剤とかトイレットペーパーとかをこまめに換える様心掛けよう。
うん、そうしよう。
僕がリビングに入ると、髭オヤ…もとい父さんがにやけた顔で一騎くんを高い高いしていた。
それに笑っていた一騎くんと目が合った。
にこぉ
僕は天使に微笑まれ、僕も天使に微笑んだ。
《 ああ、眩しいね。