たまに本当に唐突に、戦闘指揮官である皆城総士は真壁一騎限定に甘えてくることがある。
そしてその時の事は、後で聞いても一切覚えていないのだと。



しかし、その記憶が無い間は、とても落ち着いていて、まるで深い睡眠でもとったかのように頭が、身体がすっきりしていると言う。


幼い頃からその立場故、人一倍大人びた子だったから。
きっとその頃の分を取り戻そうと本能が叫び求めているのかもしれないと一騎は思っていた。


この日も、真壁家でたまの休日を寛いでいる時だった。
真昼を少し過ぎた頃、昼食も食べ終えて一番暑くなる時をどう涼もうかと考えていた。



先ほどまでは、いつもの口調でしっかりとお昼の素麺を食べていたのに。
片付けて居間に戻ってきたら。


不意に抱きつき、暖かいその膨らみに、安堵の溜息を漏らした。



「総士?」

「生きて…るんだな…」

「ああ。生きて…お前も、俺も、ここにいるよ」



優しく頭を撫でてやれば、抱き付く腕に力が篭った。



「心臓の音が…ちゃんと聞こえる…」



早すぎず、遅すぎず。
そんな規則的な一騎の心音に、酷く安心する自分がいた。



「総士…眠いのか?」



珍しくも目をとろんとさせ、虚ろ舟を漕いでいた。



「なんか、赤ちゃんみたいだな」



くすくすと笑いを零せば、しがみついたまま眠くないと強がり目を擦る。



「無理しなくていいぞ。眠いならあっち行って寝よう?」



布団敷くから、と立ち上がろうとする一騎に

まるで置いてかれる子供の様な不安げな目で縋ってくる。



「眠くないから…このままで、いて…くれないか」



こんな総士は初めてで。


勿論、置いていけるはずもなく。



「解った。じゃあこのままで」



おいで、と優しく腕を広げる。
そのかいなに、再び安心した様に笑い、飛び込んだ。







「一騎…一騎、かずき…」

「なんだ?」



甘えて摺り寄せてくる頭を撫でながら一定のリズムで背中を軽く叩き宥める。



「僕は、ほんとうは…」

「ん?」

「だれ…か、に…」



言いかけて、すぅっという寝息が聞こえてきた。



「寝たのか…?」



その柔らかい髪を梳けば、服を掴む手が自然と強まり。



「…知ってるよ。…誰かに、言いたかったんだよな……お前は」



その苦しみを。
痛みを。


自分はここにいると。


苦しそうに、そして何よりも愛しそうに、一騎はその頭に口付けた。



どこにもいれない自分だから、せめて形だけでも在るという事を。



一人で耐える事の静寂さを知ったから
誰かと共有したいと、当たり前のことを心が叫ぶ程に望んでしまう。


声も、瞳の色も知らない無垢なままで眠り続ける妹の傍で

まず泣くことを殺し、笑い方を忘れ、ますます自分という存在価値が解らなくなり





いつしか他人の中にしか自分の存在価値を見出せなくなっていた。



そんな総士を一騎は傍で見ていながら、何も出来ずにいた。
でも数ヶ月前に島を出て、漸く総士と正面から向き合える強さを見つけた。



理解したいと思うことが、救いなのだと。


傲慢ではなく、同情ではなく
ただの自分のお節介なのだと言い、無条件で総士を受け入れようとする。


その優しさが、大人の彼と子供の彼を引き出し、バランスを取らせていた。



「総士はいい子…」



自分よりも大きい身体を抱きしめ、呪文の様に囁いた。



「なんにも怖くないよ…いつだって、傍にいるから…」


「お前が怖いと思うもの、綺麗って思うの、好きなもの、嫌いなものなんだって一緒に見てあげる」



だから、我慢しないでいいんだよ



泣きそうに、でも幸せそうに顔を歪めた。




「おやすみ、総士」



軽く額に口付けて、起こさないように彼の頭を膝へとずらした。
近くに畳んであるブランケットを引き寄せ、眠る幼子にかけてまた優しそうに笑った。






































おまけ









柔らかい感覚に、総士は目を覚ました。

見ればそれは一騎の膝で。



「…寝て、た?」



またかと呟けば一緒に眠っていた一騎が目を開けた。



「…おはよ」

「おはよう」



まだ覚醒しきれていない一騎の膝から退くと、今度は一騎を寝かせた。



「そ…し?」

「ずっと僕を乗せてくれてたんだろ…足も疲れたはずだ。横になれ」

「ん…じゃ、そぉしも、いっしょ…」



ぐい、と袖をひっぱり倒させて
二人で畳の上に寝転がる。


身体を丸めて眠る一騎を確認して、自分に掛かっていたブランケットに一騎を招いた。



「一騎、ありがとう…」



本当は、寝てる間、まどろんだ頭の中で一騎の声が聞こえてるんだ。


僕の求めた全てがここにあり、それを与えてくれる。


甘い匂い やわらかな肌
包み込む笑顔 だいすきなかずき




僕の全てがお前の為にあると、今なら言える。























≪ 僕が見たのは、何時か醒めてしまう夢なんかじゃなく。