夕暮れ時の茜色の空
誰もいないデパートの屋上
僕だけがその空間に取り残されていた
小さな遊園地
回りには、動かない玩具達
立ち尽くす僕に降りかかるのは
柵の向うから聞こえてくる楽しげな笑い声
僕は また独り
ふと見上げた空は、赤紫色
もうすぐ闇が埋め尽くす景色
塗り固められた、虚空
季節は夏だから寒くはないけれど
でも、やっぱり少しだけ寂しくて
泣きたくて
小さな声で呟いた
「 。」
薄暗い
僕自身も呑まれそう
実在している、と確信を持てない『不安』
絶対的な恐怖感
其れでも綺麗さが否めない
僕は まだ独り
真昼の暑さは幾分安らいで
でも少し汗ばむ体感温
それが逆にどうしようもなく孤独感を増幅させて
また僕が死んでいく
それは蛍が失色するように静かに
それは蝉が死ぬように早く 簡単に
それは蝶が堕ちるように綺麗に 儚く
消えていく
悲しげに空気を掴む手は
またも空回り
掴みたかった希望は高い位置で僕を見下ろしたまま、笑ってる
聞きたくなくて、固く目を閉じきつく耳を塞いだ
崩れ落ちて蹲る僕に降り注いだ涙の欠片
外から聞こえてくる笑い声は悲しげなレクイエムに変わった
それでも絶対に泣きたくなくて
しゃがみ込んだまま柵を掴んで天を仰いだ
僕は まだ、独り
独りきりのまま唇を噛んで涙を殺した
だいぶ長い間独りきりだったけど
こんなに苦しいのは始めてで
逃げる術も助かる方法も解らない
嗚呼、視界が滲んできた
駄目だ、零れるな
これを流したら、僕は駄目になる
壊れて
負ける
未だ見ぬその敗北感がどうしようもなく怖くて
今まで必死に創ってきた僕が無くなってしまう気がした
相変わらず唇は噛み締めたまま
どこまでも続く広い天空を睨みつけた
カツンカツンと階段を上ってくる音がして
僕はいそいで目元を手の甲で拭った
キィ、と控えめに屋上の分厚い扉が開いた
ゆっくりと振り返れば
待ち望んでいた君がいて
走って探してにきてくれたのか額にはうっすら汗が浮かんでいた
僕の姿を確認した君はとても嬉しそうに笑って
声をかけた
「やっと見つけた!そうし、帰ろう?」
みんな心配してるよ、と首を傾けながらこっちに向かって歩いてきて
同じ目線になる様にしゃがんで
そして
手を差し出してくれた
「どうしたの?何か辛いことでもあったのか?」
よしよし、と頭を撫でてくれた
まるで一騎自身も痛いみたいに表情を歪めるから
また、泣きたくなった
誰よりも先に来てくれた歓びと
切なさで胸が張り裂けそう
だから僕は両手を広げて一騎に抱きつきいた
「ぅわっ?そうし‥?ほんとどうしたんだ?」
いきなりのことに驚きながらも、すぐに片手で僕の背中を安定したリズムで優し
くたたきながら
空いた手でまた頭を撫でてくれた
その行為に甘えながら
ひどく安心する自分を見た
一騎はいつも暖かい温もりで僕を包んでくれる
覚えていないけど、お母さんってこんな感じなのかなぁ
「そうし、そのままでいいから聞いてて?何があった、とかおれにはわかんないけ
ど‥‥そうしが言いたくないなら言わなくてもいいよ。でもね、忘れないで。おれ
はここにいるよ。おまえも、ちゃんとここにいる」
変わらない優しい力加減で
あまりにも優しく囁くから
ずっと耐えていた僕の瞳から涙が溢れ出た
それでも嗚咽は零すまいと、ちっぽけな自尊心が僕を動かす
「辛くなったらがまんしないで泣いていいんだよ。たえられなくなったら、おれが
また一緒にいてあげる」
「ね、そうし。怖くないよ?おれはそうしが話すまで待つから。もしそのときが来て、
おまえのことが少しでもわかったら‥‥そのときは、きっと今よりも仲良くなれるよな」
一騎の言動で僕は凄く満たされて 目を閉じた
あぁ、また僕を白昼夢から連れ出してくれたね
強い風で僕の祈りは攫われたけど
綺麗な夕闇の中
僕は 独りじゃなくなった
心の中で願う
僕も一騎もここにいる。それだけでいまはしあわせ
だから、だれもこわさないで ここだけがぼくのゆりかごなんだ
色濃く残った想いは色褪せることなく
僕の使命と衝突して
新しい僕が生まれた
ねぇ、一騎。僕は笑えてる?
いや、違う
お前が一緒だから僕もまた笑えるかな
≪ 悲しみは夕陽に溶けていた