「い、ぃやだ…こわ…い
…くる、な…誰も来るな…だいじょ、ぶ…まだ……俺は…ッ」
「一騎」
「違う、俺じゃない……おれ、じゃ…な、い……?」
色素の薄い男が、返事をしないまま膝を抱える少年の頭に手を置いた。
「ひッ…!や、やだ…っ
やめろ…やめて……悪いこと、してな……ねぇ聞いて!いつもいつもあいつらは…ッ違う!気持ちわるい……!!俺じゃない…!
消えろきえろきえろきえろ……大丈夫、まだ俺は…違う、本当は…、ねぇ!」
瞬間的におびえて頭を抱え、宛ら守る様に其の身を丸めた。
「一騎。」
耳元で囁かれる声は低くて、何故かとても懐かしくて落ち着いた。
目を瞑る少年には見えていないが、男は怪しげににんまりと口元を歪めた。
「一騎」
もう一度、静かに繰り返した。
「…」
「かずき
ねぇ、僕が解る?」
「……そ、し…?」
顔に掛かる一房の髪をどけてやれば、ともすれば気でも違わんばかりに不安に揺れる目が垣間出た。
「こわい?」
「ッ…」
口にした其の単語に其の瞳を大きく開かせた。
「僕が、コワイ?」
琥珀の目を見つめ、ゆっくりと区切って尋ねれば。
「こわ…こわく、ない…こわくない…?
コワイ?…そぉしは、こわくない」
まるで自分と会話するかの様にたどたどしく、けれどしっかりとそう紡がれた言葉に、其の美しい目を細めた。
「良い子…」
再び頭に手を置き、優しく撫ぜた。
一瞬ビクついたものの其れをされるがままに、気持ち良さそうに受けた。
「一騎、」
名を呼べば、又、その目には自分だけが映り。
「一騎が僕だけの一騎になってくれるなら、僕が守ってあげる」
「そぉし?」
「僕は僕だけの一騎が欲しいんだ。そうなってくれたら、もう誰にも、誰にだって
お前を傷つけさせやしないよ。
ねぇ、お前を僕にくれる?」
どう?と何時通りの口調で問う。
「俺にはなにもないよ
おまえが持ってないものでほしがるものなんて、おれにはない…おまえがとくすることはなにひとつ」
あどけない瞳でそう告げた。
すれば男は頭を振って。
「そんなの、イラナイ」
「え」
「そんなのいらないから、一騎を頂戴?」
「お、れ…?
おれで、いいの…?」
「うん。一騎がいい。一騎がいいんだ。…ねぇ、笑って?」
「こ、こう?」
「もっと笑って?僕だけの為に笑って見せて」
可哀想な一騎。
薬の副作用で自我が入り混じって、自分の何かが消えていく恐怖に毎日怯えて。
退行していく。
何もかも。
小さな子供は必要とされることにこの上ない至福を感じる。
今の一騎も其れと同じ。
誰もが諦めてしまったお前を
僕が全て必要とするから。
「…そぉしは、おれの、…みかた?」
「一騎が望むなら」
でも本当はこんなんじゃ満足出来ない程、君に餓えてるんだ。
幼子が、嬉しそうに笑った。
≪ それは偏愛とも寵愛ともとれる、歪曲した恍惚