「ここにいる僕を見てほしいって、
そんな子供みたいな事ばかり思ってるんです。
正直、自分がこんなにも押さえが効かない奴だなんて思いませんでした。
でも僕はまた色を知ってしまった。苦しいけど、それ以上に楽しくて嬉しくて…そんな色を、もう失いたくないんです…灰色は嫌で…っ
…抜け殻みたいな自分には戻りたくないんです」
華やかに見える学園の人気者には人知れない影があった。
そんな有り触れたフレーズでは何故か言い含められない気がした。
だってこいつは腹に大きな闇を飼ってる。
きっとまだ誰にも言えないものなんだろう。
そして、多分それが総士をこんなに冷めたような捻たような、でも子供みたいな掴み所のないやつにさせたんだろう。
だからって、放ってはおけない。
だって、きっとそれは大きく育つと、総士を喰ってしまう。
呑まれて、それこそ「あいつ」が消えてしまう気がする。
それは同情?哀情?
いや、どれとも違うかな。
俺の何かが総士に引っかかる。距離を置こうと考えながらも、頭の中じゃ総士でいっぱいだったころから、気になっていたのかもしれないや。
だって、そうじゃなかったら、一々総士のこと考えてたりしないよな。
「俺、は教師だし…、お前だけを見てやるなんて事約束出来ないけど……」
埋もれたままで一瞬、腹の辺りで服がきゅ、と引っ張られる感じがして
「でもきっと、平等でなきゃいけない立場なのに…俺は総士ばかりを見てる気がするよ」
その感触が消えた。
「だって、今までだって、気付くと目で追ってたんだ」
なんで、総士から色が消えたのかとか
なんで、俺なのかとか
色々聞きたい事は山ほどあるけど
それとは別に、無条件に受け入れてあげたいと思ってしまう。
でもそうだねそうだねって肯定するばっかがそれじゃないと思うんだ。
そいつは、手懐ければ大きな力になるんだって教えてあげたい。
きっと相反したものが一つの所にあるから段々と入れ物が歪んでくんだ。
「苦しかったね、悲しかったね。……でもごめんな。俺には代わってやることも、況してや救ってやることもできないや」
俺はまた、あやす手を再開した。
「傍にいることしかできないんだ。でもな、傍にいて、お前が迷わないように、手を握ってることはできる」
「僕の、手?」
「ああ。間違ったって迷子になったって何度だって引いて、抜け殻になる前にこっちに引き戻してやるから」
「……っ」
(ねぇ先生。あの日、沈んでくぼくは、その手を待ってたのかな。)
今もまだ、ぼくはわからないままだけど、無意識に伸ばした手は、もう、一人じゃなかった。
「ね、総士。だから一緒に進んでいこう」
それを乗り越えれたら、きっと新しい総士が生まれて。
今度は自分がその自分を受け入れてやれることができるはずだから。
それができたら、そうしは総士とはぐれずに済むと思うんだ。
そうしたらきっと、あいつももっと軽くなって
もうなにかに怯えなくていいようにまでなってくれれば嬉しいな。
決して小さなヒロイズムに酔ってる訳じゃないと思うけど
こんな俺は、どっか可笑しいのかな。
ふと、作りかけていた課題を思い出したけど、どうせ中途半端だしと諦め
ただただ、俺は総士の背中をあやし続けた。