「ここの食堂は美味しいか?」


気を抜くと、気付かないうちにいなくなっていそうだからとシャニの手を繋いだ。



「普通…」

「そっか。おすすめとかは?」


ぱっと見解らないが、シャニはとても嬉しそうだった。



「定食が一番人気だよ!」

「へぇ」

「日替わりメニューでさ、行くのが遅れると完売してるんだ」

「あ、ごめんな?俺が挨拶してたから…」

「別に気にしなくていいぞ。こいつらが初めからちゃんと来てれば問題なかったんだからな」

「オルガはうっさいなぁ」






どうもこの二人は仲が良すぎるらしい。


そんな言い合いを聞きながら食堂の入り口を潜った。

おすすめだというA定食を頼んで席に着いた。



「シャニ、平気か?」


手を繋いでいた為、必然的に横に座ったが先程から会話に入ってこないシャニを覗き込んだ。



「平気」

「ほんとに?具合悪くないか?」

「‥‥うん…でも‥なんかダルイ」

「そいついつも眠そうだからな」



ご飯に手を付けないで眺めるだけのシャニ。


本当は一騎をどう落としに行くか考えているだけなのだが。



「それは平気じゃないって言うんだ!医務室行って休んでるか?」


するとシャニはふるふると頭を振った。



「行かなくて平気」

「でも食欲ないんだろ?」

「じゃぁ、食べさせて?」



困った一騎は自分の箸を置いてシャニの箸を持った。



「一騎!?ほんとにやってやるの?」



何故か珍しくクロトが泣きそうだ。



「それで食べてくれるんならいいだろ?」



それ絶対ワザとだよ!と喚くクロトが突然息を飲んだ。


シャニが凄い目付きで睨んだのだ。
しかも俯いているため影が出来ており、元の恐さを更に際立てていた。

そうしているガラの悪さは、そこいらのチンピラやヤーさん等の比ではない。

右目だけで人を呪い殺せそうなオーラを放てるシャニには、誰も逆らえない。



「‥‥」

「クロト?」


黙ってしまったことに、心配して声をかけたがそれもシャニが一騎の袖を引っ張ったことで終わった。


「何だ?」

「…ご飯」

「食べるか?」



こくり、と彼は肯定した。



そして少しずつ料理をシャニの口に運ぶ光景を二人は眉根を顰めて見ていた。


シャニが咀嚼している間に自分もたべて、またシャニに食べさせる。

それを何度も繰り返してようやく食事が終わった。



「全部食べたな。偉いぞ」


と彼の頭を撫でた。


「一騎、僕も全部食べたよ!」


自分も撫でて欲しいため、やたら強調してくるクロト。



「どこも悪くないんだから…当たり前じゃん…」



仮病の自分を棚に上げ、ボソッと呟くシャニ。


「うん、クロトも偉いな」



一騎が頭を撫でればそれに嬉しそうに目を閉じるクロト。

小さく舌打ちが聞こえたのは言うまでも無い。



「オルガもやるか?」

「ぁあ゛?いらねぇよ!」



問われた恥ずかしさから、つい乱暴に断ってしまった自分に軽く自己嫌悪に陥るサブナック少尉。



「そっか」



そしてあっさりと引いてしまった一騎に少し涙。何も言わずにやってくれたらよかったんだよ!と心中嘆いた。





が、しかし。



不貞腐れてるオルガの頭を小さな手が撫でた。



「素直じゃないといいことないぞ?」



降ってくる声に驚けば、そこでは一騎が笑っていた。



「……///」



驚きと嬉しさと恥ずかしさで、取り敢えず次の言葉を探し目を泳がせると、魔王…もとい、シャニがいた。



またこちらを睨んでいる。















「天国からいきなり地獄へ落とされたかと思った」



後でO氏はこう語った。




そもそも、シャニがこんなにも本気なのは見たことが無い。

何に関しても無関心。目の前にあるものが何か認識できているのかどうかさえ不思議だったやつが。


戦闘のときだけ生きている様な表情を見せていたやつが、一騎には執着にも似た感情を露にしているのだ。







一騎も可哀相に、と心の中で同情した。