「一騎っ」
自分を呼ぶ突然の声に驚きながらも教室のドアの方を見た。
するとそこには兄であるシンの姿があった。
「シン兄‥‥?」
学年の違う彼は当然教室のあるフロアも違うはずで。
不審に思いながらも兄の元へ急いだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃないだろ?自分で作った弁当忘れて‥‥」
「え‥‥」
兄の手元を見れば確かに綺麗に包まれた自分の弁当箱があった。
「どうりで軽いと思ったー‥‥」
あはは、と笑ってみたが、兄は急に真剣な顔になって一騎を抱きしめた。
「ちょっ‥‥シン兄っここ学校!」
わたわたと顔を真っ赤にしながら抵抗する一騎は誰の目から見てもそれはもう可愛く映った。
「そんな無防備なお前も可愛いが‥‥っよりにもよってあんな変態と同じクラスだなんて‥‥大丈夫だ、一騎!兄ちゃんがお前を守ってやるからな!」
「へ‥‥変態?え‥‥うん、じゃぁ頼むよ‥‥」
俯きながら目に涙を浮かべ力説する兄。
そんな兄の言葉の半分以上が理解出来なかったが、突っ込んだらそれでまた話がややこしくなるので敢えて呑まれてみた。
「誰が変態ですか」
「あ、総士!助けろっ」
突然会話に入ってきた幼馴染に未だに一騎の肩に腕を回しながら総士を威嚇している兄を剥がしてもらおうと頼むが、その兄によって一騎の両耳が塞がれた。
「出たな変態め!一騎、駄目だこんな奴と会話しちゃっ」
「ですから僕は変態じゃありませんよ‥‥ただ純粋に一騎を愛してるだけです。」
手を胸に当て、至極真面目な表情で言う総士にシンの怒りは更にK点に達しようとしていた。
「ぬぁにー?!この青二才が!」
「青春真っ盛りですね」
「ですねー‥‥って違う!!隠し撮りした一騎の写真でアルバムを作ってる奴のどこが純粋だ!」
「うっ‥‥何故それを‥‥」
「俺は一騎に関することなら何でも解るっ」
「いや、寧ろそっちの方がヤバイですよ?!」
判ってます?!とキャラを壊しながらツッこむ総士だが、段々と血の気の引いた顔になっていった。
「そんなことより。どのアルバムを見たんですか?」
「(そんなこと…)俺が見たのは3,5って書いてあったけど」
「本当に3,5でしょうね!?2,5じゃなくて?」
「ああ、確かに3,5だったけど‥‥っていうか,5ってなんだ!?微妙に気になってたけど!」
「(危ないとこだった‥‥本当に)いや、気にしないでください」
安堵して片手でストップのポーズをとって話しを逸らそうとするが。
「気にしますよ!普通に!」
無駄だった。
「ってか俺の存在無視してんなーっ!」
今まで大人しく耳を塞がれていた一騎だが、何やら騒がしくなってきたので限界が来たようだ。
ってかシン、今までよく耳塞いだまま口論出来てたね。
「かっ‥‥一騎!」
「二人が仲いいのはよーっく判ってるけど!」
「俺の耳塞いでまで聞かれたくない会話するなら二人が違う場所に行けよなっ」
息継ぎもしないで一気にそう言うと、背を向けて自分の席に帰って行った。
「一騎!ま、待て!僕はお義兄さんなんかに興味はないっ」
「なっ…な!?俺だってアンタに興味ないわー!!」
総士が切なげな表情で叫ぶが一騎は振り向くことなくスタスタと行ってしまった。
「一騎‥‥」
「お義兄さんの所為で一騎が行っちゃったじゃないですか‥‥」
「お義兄さんってなんだ!さっきからチラホラ気になってたけど!気安く呼ぶな!ってか俺だけの所為かよ?!」
「そんないっぺんに言われても‥‥」
「うわーお前ほんとムカつくなぁ」
≪ 本当はこんな毎日が大好きなんだ。