「先輩。疲れましたか?」

「一、騎…。いや、平気だよ」



安心させるように僅かに微笑んだ。

ファフナーの訓練で、夢にまでみた自分の身体が自由に動く感覚を思い出して意識が浮ついていた。



「そうですか?今年も暑くなりそうだから、気をつけて下さいよ?」

「はは、一騎は結構心配症なんだな」



軽口を叩きながらも血の気がない顔色に、やっぱりちょっと休みましょうと一騎は提案した。

丁度日蔭になっているところに二人で座った。

この島中を駆け回ることが出来る喜び。
しかしあれは、諸刃の剣だ。
ファフナーになればなる程、自分が自分でなくなっていく。
それがどうしようもなく不安で恐くて。



「自我ははっきりしてるのにな……」

「…?自我?」



まさか言葉に出して言っているとは気付いておらず、一騎のいぶかしむ顔にハッとした。



「いや、何でもないよ……それより、今日はほんと暑いよなぁ」



軽く伸びた後、唐突に一騎の膝に寝転んだ。



「せ、先輩!」

「なに〜?」

「いや、なにじゃなくて…そんなに具合い悪いんですか?」



顔を赤くしながらあたふたしたと思ったら、急に心配そうな顔をする。



「うーん…でもこうしてると、楽かも」

「そう、ですか?なら…」



本当は大したことはなかったのだが、こうしていたくて嘘をついた。



「一騎はこの島…好きか?」



自分でも随分と唐突な質問だと思った。
だが一騎は少し考えて答えてくれた。



「好き…俺はこの島しか知らないけど…多分好きだと思います」

「そっか。…じゃあ俺のこと、好き?」

「?!……も、もちろんすっ…好きですよっ」



いきなり切り替わった詰問に小さくなりながらも答えた。



「嬉しいよ、一騎。あ、俺も好きだよ」



寝転んだまま、その頬に手を伸ばして微笑んだ。



「俺がどんな風になっても…好きでいてくれるか?」

「…?」




言葉の真意が読み取れず困った顔をしていると、そのまま僚は続けた。




「はは、例え話だよ。そんなに考えないで」




明るくごまかすものの、問い掛けた僚の顔に一瞬だが不安が浮かんだのを一騎は見逃さなかった。











































それから日が暮れるまでの間、本当に他愛もないことを沢山話した。
もうすぐ始まる夏祭りのことや学校でのこと。僚の愛犬のプクのこと。

近々中学を卒業して地下のプロジェクトに参加する僚にとってそれは忘れたくない、大事な時間だった。



「ありがとな、一騎」



いつも送ってくれて、と犬の頭を撫でながらまた笑った。



「もう大分暗いから一騎も気をつけて帰る…」

「俺っ…先輩がどんなになっても、今と変わらず絶対に好きでいると思います」




遮って昼間のことに何の迷いもない顔で言い切る一騎に驚いた。



「根拠なんて何もないけど…例えば先輩がどんな姿になっても…俺のこと、忘れちゃったとしてもっ俺はまた、先輩を好きになる自信があります」


普段は無口な一騎がここまで話したことが、何より思いがけない欲しい言葉が渇いた胸を満たした。


「……ありがとう…一騎」

「だからそんな寂しそうな顔しないでください…俺、先輩の笑った顔が好きだから」

「…一騎には敵わないな」

「?」

「いや、一騎からあんな大胆な告白が聞けるとは思わなくてさ」

「…っいやっ!あれは告白っていうか…」

「照れちゃって可ー愛い」

「先輩!」




からかわないでくださいと眉を吊り上げる一騎を捕まえて囁いた。






「本当に、嬉しかった。」

「先、輩?」




抱きしめて顔を埋めたまま決して離れようとはしなかった。





「俺、本当に一騎が好き」

「俺もですよ」

「でも、好きっていうより…愛してる」



一騎の体が震えたが、僚の頭を抱え込むようにして

俺も同じ思いです、と口付けた。


暫く二人とも動かなかったがプクが足元に擦り寄ってきたことで終わりを告げた。



一言二言交わし、一騎は帰路を辿った。
横ではプクが動かない僚に心配そうに鼻を鳴らした。




「あぁ…入ろうか。……前より恐くなくなったな」



小さく呟き胸の中で絶対に帰ろうと誓う。
大好きな君がこの島にいるから。生きてまた、君に言葉を捧げよう。





















≪ ねぇ、その時はきっとまた俺も好きになるから